「キリスト新聞」6月11日付より

命を助けて下さい“保護を求めて来日したのに”


 5月29日、東京都世田谷区の日本基督教団経堂緑岡教会で「グロジャ・ジャル・アルセンヌ氏の仮放免を求める集い」がもたれ、集会でアルセンヌ氏の妻、笹井小夜子さんが、集会のために記した文と、アルセンヌ氏が同教会員宛に書いた手紙を朗読した。以下、笹井さんの文章と、アルセンヌ氏の手紙を紹介する。(編集局)

コンゴ難民、アルセンヌ氏の妻、笹井小夜子さんの声

 私とアルセンヌ(これはクリスチャンネームですが)が出合ったのは、会社の上司であり、アルセンヌの身元引受人である前田力さんの紹介によるものです。アルセンヌはYシャツにネクタイ、スーツ姿でした。

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 すでに前田さんからアフリカの男性と知り合った事を聞いていたので、彼を紹介された時は、おどろくということはなく、とても好印象でした。その時彼は、まだ日本語が話せず、英語の自己紹介だったと思います。ちなみに彼の母国語はフランス語です。彼は語学が堪能で英語、スワヒリ語、リンガラ語が話せます。私は英語を話せないので、電子辞書片手に、片言の英語で会話をしました。
 5月19日は私の誕生日でしたが、彼はバースデーケーキを私のために買ってきてくれました。彼が心から歌ってくれたバースデーソングを忘れることはできません。会社へは書道や将棋など、日本のカルチャーを前田さんから学ぶため、よく来ていました。
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 とても明るく、彼がいるだけで全体がとてもなごやかになっていました。やがて難民申請の書類を前田さんが作るのを手伝ううちに、彼の母国での悲惨な状況を知ることとなりました。彼の話は映画やドラマ以上にリアルで生々しく、信じられないことばかりで、驚きを禁じえませんでした。
 迫害から逃れて来たのだから、日本にいる時は楽しんでもらいたいと、家へ招いたり、食事を共にしたり、歌を歌ったりとしましたが、思い出に残る事ばかりです。
 歌といえば、彼は森山良子の(歌う)「さとうきび畑」が好きで、何回も何回も聞き、覚えようとしていました。戦いの後に、自分一人残されたとの歌詞の内容が、自分の境遇に似ていることに心引かれたようです。
 私たちは、彼を連れて魚釣りや温泉旅行、富士山へのドライブや、隅田川の花火を見に行ったりしました。初めは暗い表情だった彼の顔が、徐々に明るくなっていく様子を見るのはうれしいことでした。
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 純粋素朴な人柄だと、母も彼の事をとても気に入ってくれました。彼は老人をとても大切にします。なぜならば、彼の国では長老はとても尊敬され、長老の言うことは守る習慣を身に付けているからです。それと年寄り(年配者)があまりいないのも大切にする理由です。
 そんな彼が突然、昨年9月1日に収監拘束されました。ショッキングな出来事でした。何の前触れもなく、難民申請の結果を聞きに行っただけなのに、そのまま9ヶ月になります。
 何か変だと思います。彼は保護を求めて、平和な国(戦争しない国)、人権を大事にする国だと思って日本を目指して来たのに、観光ビザが切れたとの理由だけで、現在まで9ヶ月も自由のない生活を送っています。しかもいつ出られるか分からないのです。
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 私は、最初「神さまが与えた試練だから頑張って」とか、「今は勉強するチャンスね」とか慰めていましたが、もう、彼に「頑張って」と言うことはできません。なぜなら、彼の身体は信仰の精神力をもっても、限界に来ているからです。
 食欲不振、頭痛、めまい、吐き気、体重も激減しています。昨日電話がありました。医者の診察を受けたいと入管にアプリケーションしたそうです。私は彼に今までに何度も医者の診察を受けるように勧めてきましたが、「ここの医者は良くない(良く見てくれない)」と拒否していたのです。
 明日への希望も持てない中で、すでにそんなことを言っていられないほどの状況なのだと思います。青空を見る事もできない。私はアウシュビッツを思い出しました。今、この日本の国の中で、私たちは外国人に対して迫害を加えているのです。
 彼と同じように難民申請をして、ビザ切れとの理由だけで2年も3年も収監されている人は多勢います。皆、国へ帰ると生命の危機にさらされる人たちです。
 彼は毎日電話をくれます。安否確認のためです。日ごと声の調子が弱くなり、元気がなくなっています。健康であるはずの人が病気にさせられていくのです。
 どうか、彼の命を助けるために、署名活動に協力をお願いします。

牛久、入国管理センターからのアルセンヌ氏の手紙

 姉妹や兄弟へ 初めての手紙を書きました‥‥‥。去年8月には経堂緑岡教会で礼拝するつもりでありました。残念ながらその直後に難民申請を認められませんでしたので収監拘束されています。
 ‥‥‥しかし、あの時には妻になった笹井さんが経堂緑岡教会で祈ることを始めました。少しずつスモールグループで聖書の勉強をしました。そして、キリストを受け入れた妻は今年3月27日に洗礼を受けました。‥‥‥神様に感謝しました。
 私の状態に関してはさびしくても、つらくても、神さまはそばにいることを信じています。私を訪ねてきた牧師、松本敏之先生がやさしく祈っていました。私のためにいろいろ感謝しました。
 しかし一緒に神さまを拝む(礼拝する)ことが欲しいです。けれども、今の状況では私にできないことと思っています。
 ‥‥‥今まで、私のために姉妹や兄弟は心配しました、ごめんなさい。本当にそれは忘れられない思い出です。
 最後に、新しい家族と一緒に生活できるように祈ってください。お世話になります。感謝してます。
 神さまの祝福がありますように。日本の国民のために祈りましょう。平和(な)社会ができるように祈りましょう。
(手紙の消印は5月26日)