わたしたちがブラジルに到着してから、早一年になろうとしています。教会や幼稚園での仕事にも大分慣れてきました。教会や幼稚園の様子などお伝えしたいことはたくさんありますが、それは次の機会にして、今回はお金に次ぐカルチャーショックであった言葉のことや、今通っている語学学校のことなどをお伝えします。
ブラジルは南米では唯一ポルトガル語を話す国です。他の国は全部スペイン語です。私たちは全くポルトガル語が分からないでブラジルに来たものですから、最初は買い物ひとつするのも大変でした。スーパーマーケットならばあまりしゃべらなくてすむので、できるだけスーパーで買い物をし、そこで手に入らないものが必要なときには、家で一生懸命辞書で調べてから出掛けました。英語はほとんど通じません。特に、私たちが一番接する機会の多いレストランとかお店の人は、まずだめです。バターもジャムも通じないのには悲しくなりました。もっとも少しでも英語教育を受けたことのある人ならば、日本人以上にはなせますから、どうしようもなく困ってしまった時には、お客さんなどで英語を話せそうな人を見つけて助けてもらいます。こちらの人はとても親切に助けてくれます。(少し脱線しますが、時に親切すぎて困ることもあります。町で道などを尋ねると、本人が知っていようとなかろうと絶対に教えてくれるのです。だから「道を聞くなら少なくとも3人に聞け」と言われます。そのうち2人が一致していたら、恐らくあっているだろうというわけです。またこちらでは「日系人はいい加減なことを言わない」という定評があるので、私など何も分からないのに、しょっちゅう道を聞かれます。)
クリスマスからカーナバル(12〜2月)に至る長い夏休みの後、ようやく私たちは待ちに待った語学学校に行き始めることができました。ウニオン・クルトラルという英語学校ですが、2つだけ外国人のためのポルトガル語のクラスがあります。生徒は、サンパウロの中国人と結婚した栄養士のアメリカ人女性、サンパウロで英語を教えながら南米旅行を計画するイギリス人女性、パナマ人の夫についてきたメキシコ人女性、ペンテコステ派宣教師のスウェーデン人男性、それに私たち日本人と、とても国際的です。8月から始まった新学期では、これにアメリカ人のダンスの先生と台湾人の歯医者さんが加わりました。とても楽しいグループです。時々集まって食事をし、英語をぺらぺら話してはストレス解消しています(もっとも私たちには大して解消にはなりませんが)。いい友だちができ、とても喜んでいます。
文化が違うと、表現の仕方も違います。新しい言葉を学びつつ、新しい文化に出会っていくことは、とても楽しいことです。子供の出産の時にも、おもしろいなと思った言葉がいくつかありました。こちらでは赤ちゃんのお祝いを頂くと、かわいい小物に名前を書いてお礼とします(日本のように大げさなお礼はいりません)。私たちが寛之のために使ったものは”CHEGUEI”と書いてありました。これは「私は到着しました」ということですが、「生まれた」という意味で使っているのです。今、神様のふところから到着したばかりということでしょう。また赤ちゃんを運ぶかごのことはモイゼス(モーセ)といいます。カトリックが根づいたブラジルらしい表現だと思いました。
(松本敏之)
(「ジャカランダのかおり」第2号、1992年10月)