別の文章でブラジリアのCCMでの生活についてご報告しましたが、今回はそこで聞いた講演のうちいくつかの内容について、簡単にご紹介します。ラテンアメリカのカトリック教会は、1968年のメデリン会議で「貧しい人を優先する」方針を採択して以来、これを徹底する歩みをしてきましたが、今回のCCMでの講演もすべてこの土台に立ったものであり、私は改めてカトリック教会のこうした姿勢に敬意を覚えました。
ブラジルでは約500万人の農地所有者のうち、たった4万6千人の人(1%以下)がブラジル全体の農地の約半分を所有しています。国連の調査によると、土地所有の偏りは世界で2番目で、ブラジルには広大な土地があるのに、ブラジルの農民は世界で6番目に貧しいそうです。この偏りは、ブラジルの開拓のされ方に由来していますが、現在でも政治家自身の多くが大土地所有者であるので、革命でもない限り土地改革はなされそうにありません。しかし土地改革、土地の再分配がない限り、国の本当の発展はありえません。講師はそのように全く解決の道が見えない絶望的状況の中にあっても、なおかつ民衆の協力の中に「出口あり」と信じて働くカトリックの修道士でしたが、その生き方に信仰のたくましさを感じました。
これも大きな問題です。土地の問題と深い因果関係があります。ブラジルの飢餓人口3200万人のうち半分以上は田舎に住む人ですが、田舎で生きるすべを失った人たちが、都会に行けば何とかなるのではないかということで、どんどん都市に入って来ています(サンパウロへは毎日1千人!)。1950年には人口の70%が田舎に住んでいましたが、現在では逆転して都市人口が70%を越えてしまいました。そのようにして都会に出て来た人たちは、バラック小屋のようなファベーラに住むか、ホームレスになります。子供も同様です。ストリートチルドレンたちの生活やその悪循環についても語られました。講師は、「ストリートチルドレンの全国運動」(MNMMR)の人でした。これは非政府的、非宗教的草の根運動ですが、実際には超教派のいろんな教会によって支えられているそうです。私は後日この事務所を訪ね、詳しい活動等を教えていただきました。ちなみにブラジルには約1500万人のストリートチルドレンがいるそうです。
子供の時から、家庭・社会・教会において、男性と女性の役割が固定されて教えられていく過程がいかに「歪んでいるか」を絵本を使って話されたことが印象的でした。ブラジルのカトリック教会にも男女差別に取り組む機関があるのです。また少女売春の問題も取り上げられました。ある調査(CPI)によると、ブラジルでは約50万人の少女が道で売春をし、これまで調査で出会った一番幼い少女は8歳だったそうです。
アイデンティフィケーション(身分証明)の問題、人口減少の問題、自治権や人権の問題などがあります。またカトリック教会では、インディオたちをカトリックにしようというのではなく,いろんな形で宗教間の対話を試みているようです。
これは特に大きな問題なので、朝から夕方まで一日かけてやりました。アフリカの神様の紹介から始め、それが黒人たちのキリスト教にどう影響しているか、また「黒」という言葉や概念がもつ否定的なニュアンスと「黒」の積極的な価値の回復などが語られました。「父なる神様は黒い色を創られた。何と麗しいことか」という楽しい歌をみんなで踊りながら歌いました。
(松本敏之)
(「ジャカランダのかおり」第8号、1994年11月)