米・ニューヨークにあるユニオン神学校での学びの中で、第3世界の神学に、チャレンジを受けている自分を見つけた。
賃金格差50倍以上という圧倒的貧富の差のブラジル。「正義と公平の神は、私たちを突き動かして、ご計画を進められるのではないか」。ブラジル行きへの召命はそんな中から形になっていく。
91年秋から今年のイースターまでブラジルの日系人教会、サンパウロ福音教会に派遣。垣間見るブラジルの現実に、より深くかかわりたいと、地域に根付き、社会問題を真剣に受け止めているブラジルメソジスト教団との関係も深めてきた。
同教団と日本基督教団の間には、正式なチャンネルができており、8月から同教団に宣教師として派遣されることになった。
「日本人の牧師としてメソジスト教団が行っているプロジェクトに協力し、日本に伝え、連携を深めていく」のが課題。今のところ任地は確定しておらず、最初の仕事は「旅」になる。約2カ月かけ、サンパウロや南米の方にあたるレシフェ、フォルタレザ、といったブラジルの最貧地帯などを訪ね、いくつかのプロジェクトを視察する。10月には妻かおりさん、長男寛之ミゲルちゃんが合流し、任地に落ち着く。ポルトガル語も練習中。
有力な候補地としてはサンパウロからバスで半日のサントアントニオ・デ・プラーナがあがっている。ここには「ボイアフリア」と呼ばれる季節労働者がいる。「冷や飯食い」という意味で、同教団がセンターを作り、この地域を平安にするために、行政にも一目置かれる活動を行っている。
「ここなら週末は日本語の説教を求めている日系教会を回り、奉仕できる」とも。
「趣味はなんですか」と尋ねたら、即座に「ブラジル音楽」と答え、早速テープを聞かせてくれた。ブラジル音楽というとすぐにサンバを連想するが、信仰の歌や圧政に対する抵抗の歌などもおおいそうである。
松本夫妻は5年前サンパウロ福音教会に派遣され、日系人教会員との交わりを通して「楽しい教会生活をさせていただきました」。同時に、貧しさの中にあっても明るいブラジルの人たちと出会い、多くを学んだそうである。そして今年のイースターで任を終え「すっかりブラジルファン」になって帰ってきた。
松本夫妻はこの8月より教団からブラジルメソジスト教会へ派遣されることになっている。ブラジルは貧富の差の激しい国で、一部大地主のプランテーションに多くの農民が働く。コーヒーやとうもろこしの収穫期に季節労働者として雇われる彼等は「ボイアフリア」と呼ばれる。直訳すると「冷や飯食い」という意味で「ブラジルでは昼休みは家に帰って暖かい昼食を食べるのですが、彼等は朝に作った冷たい弁当を食べるのでそう呼ばれるわけです。その意味では日本にもボイアフリアはたくさんいますよね」。
ボイアフリアの賃金は非常に低く、家族を養えないために青年は都市へ出て行き、そこでホームレスやストリートチルドレンとなっていく。ブラジルメソジスト教会ではこれらの貧困の問題に対処すべく、様々なコミュニティーセンターを作り、取り組みを進めている。松本夫妻は、教団の宣教師として、これらのプロジェクトに参加していく予定である。
「都市の貧しい人は表情も暗く、自分に何ができるのかと無力感に陥ります。しかし農村では貧しくても家族があり、人と人との繋がりがあり、笑い声もあります」。「日本の教会とブラジルの教会の橋渡をしたい」との思いを胸に、夫妻の心はすでにブラジルに飛んでいるようだ。